2025/05/23 20:24
これは、少し特別なジュエリーです。
琺瑯(ほうろう)とダイヤモンドで構成され、中央には目を閉じた女性の顔があり、額には一輪のパンジーが添えられています。澄んだ青のグラデーションは、水の揺らぎのようにも見えます。
今回ご紹介するのは、
前回に続きアール・ヌーヴォー期のジュエリーデザイナー、ルネ・ラリックの作品。
彼のジュエリーには、背景に物語があるものが多くあります。
この作品のモチーフは、シェイクスピアの『ハムレット』に登場するオフィーリア。
オフィーリアという人物については、以前の投稿【絵画《オフィーリア》の背景にある物語を共有していきたい】でも触れています。よければそちらもご覧ください。

愛する人に父を殺され、
悲しみと矛盾のなかで心を失った彼女は、
花を編みながら湖に落ちて命を落とします。
このジュエリーを見て気づくのは、
額のパンジーが「愛」と「想い」を象徴し、
ブルーの琺瑯は、水面に広がる波紋を思わせるということ。
それは造形であると同時に、感情のかたちでもあります。
いいジュエリーは、ただ高価な素材を使えばいいというものではなく、見る人の中に、記憶や気持ちをそっと思い出させるもの。